結末が想像できてもミステリーは成立するし、どんでん返しがすべてじゃない(湊かなえ『境遇』※ネタバレなし)
こんばんは。
「このチョコおいしいよ」ってマンゴー味のチョコを渡しながら餌付けナンパしてきた男性に対し、その菓子を袋ごと奪って中身を確認しレモン味を取り出してマンゴーと勝手に交換した挙句に、それを口に放り込みながら「甘いのあんまり好きじゃない」と言って包み紙を相手のポケットに捨てた、天真爛漫でおちゃめなみゆです。
相手に「酔っぱらってるの?」と酒乱扱いされましたが、安心してください。素面ですよ。
湊かなえさん『境遇』を読んだ。
以前も経緯を書いたのですが、『境遇』を買おうとして熟語タイトル違いで『望郷』を誤購入してしまったので、やっと手にしたという逆境で燃え上がる恋のような気持ちです。
これで三冊連続湊かなえさん作品である。
『境遇』は、朝日放送創立60周年記念スペシャルドラマのために、湊かなえさんが書き下ろしたもの。つまり、ドラマ化ありきの企画。湊さんにとって初の試みだったそうです。
『境遇』のあらすじ
物語の主人公は二人の女性。政治家の優しい男性と結婚し子供にも恵まれ、さらには絵本作家としてブレイクした陽子。もう一方は新聞記者としてバリバリ働く晴美。彼女たちは血縁の両親を知らず施設で育ったという共通点を持つ親友だった。
ある日陽子の息子が誘拐されることで物語は動き出す。
「ブジ カエシテホシケレバ セケンニ シンジツヲ コウヒョウシロ」
息子を誘拐した犯人は誰なのか、犯人が公表することを求めている「真実」とは何なのか。
陽子は、新聞記者であり最も信頼する友である晴美に助けを求め、息子を救うために真実に迫っていくーー
結末が想像できるのに何でもう一度読みたくなるんだろう
読者からすると登場人物の台詞や描写から犯人や結末が割と予想できるので、大どんでん返しなどはないです。なのに飽きることなく、ハラハラしながら読み進めることができます。謎を解き明かすことに参加することが楽しいミステリーではなく、心の動きを感じ取ることが楽しいヒューマンドラマみたいなものかもしれない。
この人が犯人だとすると動機はこれだろうか。
この台詞には実はものすごい嫉妬が含まれているのではないか。
登場人物一人ひとりの言葉や行動に透けてくる人間の心理が、みえてくる。でも、読者からしても犯人や結末が何となく予想がつく程度で、読み進めている間は確信を持てないんですよね。
読み終わってやっぱりそうだったと呟いて、もう一度頭からめくりなおすんですけど、確信が持てずに読んでいた犯人側の行動・頭の中の言葉が、今度は「犯人」としてはっきりと読める。
すると、普通の状況説明のはずだった一文が、ものすごい悪意を持った独白に変貌しているんです。結末は想像できていたはずなのに、物語の文章そのものが持つ意味が変わって読める。
これ、二回読んだ方がいいと思います。
他にもこれ読んだよ。
さて、今日から一旦湊かなえさんはストップして、別の作家の作品を読みます。