ヒトブログ

人間の不思議とコーヒーと本と、雑記。

ただでは終わらないミステリー(湊かなえ『リバース』※ネタバレなし)

湊かなえ『リバース』

 

昨日、朝(昼?)起きてから夢中になって読み耽ったため、一食も食べなかった。
コーヒーだけ飲みながら一気に読了。

 

 

語り手の深瀬和久は、自意識が強く、自分の存在の必要性を推し量りながら(そして必要性のなさに項垂れながら)生きている、屈折した人間。コーヒーが好きで豆や淹れ方へのこだわりがあり、コーヒーを人のために淹れている時だけ、自分が人に求められていることを感じている。これまで人から認められなかったのは周囲の人間のレベルが低いからだと、心の中で人を見下すさまは自尊心の鬼。「読者の共感ゼロ」な主人公だ。

 

ある日恋人の美穂子に届いた手紙に書かれた「深瀬和久は人殺しだ」という言葉。思い当たる節はある。深瀬は大学ゼミの仲間と行った旅行先で、人生初の親友、広沢を事故で亡くしていた。

 

深瀬はこれまで隠していたことを美穂子に打ち明けるが、美穂子はその内容に失望して出て行ってしまう。

 

人殺しだという告発の文章は旅行に行ったゼミ仲間全員のもとに届いていた。誰の仕業なのか。犯人を捜すために、深瀬は広沢を知る人物たちに話を聞いて回ることにした――。

 

 

深瀬の自尊心の高さにうんざりして、ここまで共感できない主人公いるかよと心の内で毒づいていたが、読み進めるうちにその人間らしさを受け入れるようになっていった。


自分の存在を肯定してくれる友人の存在。それを「利用して」自分が成り立っている感覚。


深瀬がその自分の屈折と向き合ったとき、本当の意味で広沢を知りたいと思った。その変化が愛しい。


「広沢由樹は●●だ」広沢の知人から話を聞いて、深瀬がひとつずつ積み上げる広沢像。複数人の話からある人物像を浮き上がらせていく手法は、湊さんらしく感じる。直接的に表現するよりもずっと、広沢の人間性、透明感が見えてくる。

 

これまで知りえなった広沢の人間性を少しずつ集め、広沢に近づいていくにつれて、深瀬たちに告発文を送った犯人にも近づいていく。犯人がわかり、第5章で物語は収束に向かう。それまで加速していたストーリー展開に訪れる穏やかな時間。

 

かと思ったとき、読者は大きく動揺することになるのだ。

 

告発文の犯人は?広沢の死の本当の理由は?最後の一行まで気を抜けない、背筋がぞくっとするミステリー。湊かなえさんの真骨頂だ。

 

リバース

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