ヒトブログ

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故郷への愛憎ってなかなか都会出身者にはわからないから多分この本は地方出身者が読むべき(湊かなえ『望郷』※ネタバレなし)

こんにちは。

家の近所のカフェが11時までモーニングサービスをやっているから、そこに滑り込んでタダ飯をいただきながら気付けば2時間が経過し、そろそろ追加注文しないと怒られるんじゃないかとおびえている者です。

 

また本を読了したので、レビューを書きます。

 

湊かなえさん『望郷』を読んだ。

 

友人2名からたまたま同じタイトルを勧められたため購入したんだけど、読んでから気付いた。お勧めされたのは『境遇』である。熟語タイトル違い。残念。でも湊さんだしハズレじゃないだろう。

 

瀬戸内の島に生まれ育った人の心理を描いた短編集。舞台が共通しているだけで、基本的に各話のつながりは無し。どの話も人物のどろっとした想いがひたひたと読者の心に侵食しながらも、希望のある終わり方をしているため、割と読後感はさわやかだった。

 

瀬戸内の島の閉塞感と、その環境が生み出す住人の仄暗さ。わたしは神奈川出身、東京在住なので、その感覚があまりわからない。都会への憧れとか、故郷を捨てること、故郷を離れた人に「置いて行かれた」と思うきもち。それを自分はリアルに感じることができない。

 

湊かなえさんは因島出身ということで、湊さんの思うふるさと像がこの『望郷』なのだろう。地方や島出身の人って、この話に強い共感をもつのかな。そちら側から読むと、また違う感想をもちそう。

 

さて、この短編集は、日本推理作家協会賞を受賞した「海の星」を含む6作品を収録。


「みかんの花」

故郷を捨てた姉が人気作家になって25年ぶりに島に帰ってきた。その姉に怒りと呆れを感じている主人公。姉はなぜ故郷を捨てたのか、なぜ今戻ってきたのか。その真相は主人公の姉への想いを変えるものだった。

 

「海の星」

島の同級生から手紙が届いた。「お父さんのことで伝えたいことがある。」よみがえる失踪した父の想い出と、その後現れた手紙の送り主の父親である「おっさん」の存在。おっさんは主人公の母親目当てに家に何度も訪れていた。父親不在の中でおっさんは魚やお菓子を施してくれていたが、失踪した父を「死んでいる」と言ったことで主人公の母親から縁を切られてしまう。時を経て明らかになるおっさんの真意とは。

 

「夢の国」

子どものころからの憧れだった東京ドリームランドに、大人になってとうとう訪れることができた。昔から行けるチャンスが来るたびに祖母と母親に阻まれてきた、その想い出がよみがえる。島に縛られることに嫌気がさした主人公が取った行動が現在にリンクする。

 

「雲の糸」

島出身の主人公は今や人気歌手。それは、父親を殺して犯罪者になった母親のもとで育ち、島で窮屈なおもいをしてきた主人公が、島の人間たちとは違う世界へ行くために努力をして捕まえることができた立場だった。願わずも知人の頼みで島に戻らざるを得なくなった主人公は、過去を知る島の人間たちに、栄光から引きずり降ろされる恐怖を感じるが、母親が父親を殺したその真相を知ることになって、主人公の心境に変化が訪れる。

 

「石の十字架」

島にきた台風で家が浸水し、娘と一緒に閉じ込められてしまった主人公。石鹸に十字架を刻み祈っていると、想い出がよみがえってきた。それは都会から島に越してきて唯一できた親友との想い出。親友ができた喜びと、彼女に頼りにしてもらえなかった寂しさを娘に語っていると、これまで気づかなかった親友の気持ちを知ることに。

 

「光の航路」

島で小学校教師をしている主人公はクラスのいじめ問題に頭を悩ませる。中学校教師をしていた父だったらどう解決しただろうと、ふと亡くなっている父に想いを馳せるが、教師としての父をよく知らない。そんなとき父の教え子と出会い、主人公は父がどんな教師だったのかを知ることになる。

 

 

すべての作品が人の善意を前提としている気がする。湊さんの背筋がぞっとする系の作品群とは、そこから大きく違う。黒湊さんを思いながら読み進めると肩透かしをくらうかも。

 

 

望郷 (文春文庫)

望郷 (文春文庫)